東京高等裁判所 平成元年(ネ)1068号 判決
第一 当裁判所も、控訴人の本訴請求は棄却すべきものと判断するが、その理由は、左のとおり付加、訂正するほか、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。
一 原判決第二一丁裏第四行目の「タンク内の圧力上昇」を「タンクの漏れによる空気の侵入の有無」と、同第一〇行目、第一一行目の「タンク内の圧力上昇の有無を検査しているものであるところ、このような圧力上昇の検査」を「タンク内への空気の侵入の有無を検査しているものであるところ、このような空気侵入の検査」とそれぞれ改める。
二 控訴人は、本件発明もタンク内の圧力上昇の有無を検査する工程中(第三工程)に液体を還流することはあり得る旨主張する。
しかしながら、成立に争いのない甲第一号証の一、二及び乙第一号証によれば、本件発明は、従来の液体タンクの漏洩検査方法では検査の実施に当たり、貯蔵液体を排出してタンクを空にする必要があり、このため作業に長時間を要する上、排出した貯蔵液体を一時的に貯留するためのかなり大きな容器が必要であり、また、検査時期が貯蔵液体の少ない時に限られる等の欠点があつた点を解消し、簡単に、また大型の装置を要することなく、しかも、何ら危険を伴わずに流体タンクの漏洩を検査し得る方法を提供することを目的とし、特許請求の範囲記載のとおりの構成を採用したこと、本件明細書の発明の詳細な説明には「先ず通気管2、給液管4に盲蓋を施して前記タンク1内を気密状態とし、開閉弁9を開いて真空ポンプ8を駆動し、容器7を介して吸上管5に負圧を作成せしめてタンク1内の貯蔵液体6を汲上げ、この汲上げた液体は容器7内に貯留せしめる。(中略)斯くしてタンク1内空間の圧力を減少せしめた状態で開閉弁9を閉じて吸上管5を封ずる。このときマノメータ11にはタンク1内の減圧状態に応じて基準圧力源10の圧力との差Hが生ずる。然るにタンク1等に漏洩があるときには、タンク1内が減圧状態であるため外部から空気が侵入し、この結果時間の経過と共にタンク1内の圧力が上昇するからマノメータ11における圧力差Hが小さくなる。従つてこの圧力差Hが減少すればこれによりタンク1に漏洩があることが判るから、所要の措置を講ずる。又圧力差Hが減少しなければタンク1には漏洩がないのであるから、開閉弁9を開き容器7を開放して貯留せしめておいた液体をタンク1内に戻す(本件公報第二欄第三二行ないし第三欄第一五行)。」との記載があることが認められる。
右事実によれば、本件発明は、第一工程において、タンクを気密に閉じ、第二工程において、当該タンク内の貯蔵液体の少なくとも一部を吸引して容器内に貯留することにより、タンク内を一定の減圧状態にし、その後、第三工程において、タンク内の圧力上昇の有無を測定し、圧力上昇があるときはタンクに漏洩があるものと、圧力上昇がみられないときには漏洩がないものと判定し、しかる後に、第四工程において、容器内に貯留しておいた液体をタンク内に還流して、検査を完了するものであると認められるところ、控訴人が主張するように、本件発明の第三工程中にタンク内に液体を充分な時間をかけて徐々に還流したとすれば、タンク内の減圧状態は直ちには解消しないものの、還流された液体量に相応してタンク内の圧力は上昇することになるから、マノメータによつてタンク内の圧力上昇が測定されたとしても、それがタンクの漏れによる空気の導入を原因とするものなのか、あるいは液体の還流によるものなのかを判別し得ず、タンクの漏洩について正しい判定を行うことができなくなるのである。しかも、前掲各証拠によれば、本件発明は、出願公告後に、特許請求の範囲について、第三工程の後に、検査終了後液体を還流させる第四工程を追加する補正をしたものであることが認められ、右事実からすれば、本件発明は、特許請求の範囲に検査を終了した後に液体を還流する旨を明記し、タンク内の圧力上昇の検査と液体の還流とは別個の工程で行うことを明らかにしたものであることからしても、本件発明の第三工程中に液体を還流する方法は含まないものと解される。
また、控訴人は、被控訴人方法(一)、(二)の工程(d)では液体を還流しながらタンクが大気圧になることをマノメータで検知しているものであり、この作業は本件発明でいう圧力上昇の有無を検査することと本質的に同一なことである旨主張する。
前記認定した事実によれば、本件発明は、第三工程において、抜き取つた液体を容器に貯留したままの減圧状態下でマノメータをみてタンク内の圧力上昇の有無を検査することにより、タンクの漏洩の有無を判定しているものである。
他方、被控訴人方法(一)、(二)を表示する原判決添付目録一、二の記載によれば、被控訴人方法(一)、(二)においては、タンク内の液体を返還用タンク容器7に汲み上げ、タンク1内を設定圧に減圧した(工程(c))後、工程(d)において、直ちに返還バルブ9を開いて汲み上げた液体をタンク1内に戻していき、マノメータ11の値が大気圧となつた時点で返還バルブ9を閉じるとともに、汲み上げ開始から返還バルブ9を閉じるまでの時間Tを計測し、かつ、前記容器7内の液体の残量Xを計測し、この計測された時間T及び残量Xを用いて判別式により漏洩の有無を判定するものであり右方法においては、タンクに漏洩がある場合には、タンク内に空気が侵入し圧力が上昇するため、漏洩のない場合に比べて還流する液体量が少ない段階でタンク内の圧力は大気圧と等しくなり、液体の残量Xは多くなるものであつてこの残量Xをもつてタンクの漏れによる空気の導入の有無を検査しているものであることが認められる。このような装置である被控訴人方法(一)、(二)においては、タンク内の気圧を見るのは、工程(c)において、タンク内が設定圧に減圧されたことを確認するためと、工程(d)において液体の還流を停止させる時点を判断するためにタンク内が大気圧に戻つたかどうかを見るためだけであつて、これだけではタンクの漏洩の有無を検知することはできないのであるから、本件発明がタンク内の漏れ自体を測定するために圧力上昇の有無を見ることと、被控訴人方法(一)、(二)においてタンク内の圧力上昇を見ることとはその趣旨を全く異にするものであつて、これが本質的に同一であるとはいえない。
以上によれば、被控訴人方法(一)、(二)は、いずれも本件発明の構成要件(三)を充足せず、したがつて、本件発明の技術的範囲に属するものとはいえない。
第二 そうすると、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとする。